テンポをアサインする

[テンポをアサイン]モードでは、テンポエディターはMelodyneがオーディオ素材の分析の過程で作成したテンポマップの修正に使用されます。ここで問題になるのは、オーディオ素材自体に変更を加えることではなく、小節線(各小節の最初の拍と一致)と小節線の間にある薄い色の線(小節のその他の拍を示す)からなるディスプレイ背景(または「拍グリッド」)に必要な調整を行うことにあります。これらは、音ではメトロノームクリックで示されます。ただし、[テンポをアサイン]モードでは、音楽に合わせてメトロノームクリックを調整します。メトロノームに合わせて音楽を調整するのではありません。

[テンポをアサイン]モードの目的

録音内容に合わせてクリックとディスプレイ背景を調整することは、グリッドに合わせたクオンタイゼーションや、録音間のテンポのマッチングなど、それ以降の編集手順を正しく機能させるために必要です。 [テンポをアサイン]モードの目的を例を挙げて説明してみましょう。ライブパフォーマンスのマルチトラック録音を行ったとします。ライブパフォーマンス中は、パフォーマーはタイミング合わせにクリックを使用していません。これらのトラックをMelodyneにロードします。すべてのトラックの合計からなる音楽を分析し、Melodyneはテンポマップを作成します。テンポマップは、(実際のパフォーマンスでクリックがしようされていなくても)ミュージシャンとタイミングを合わせるバーチャルクリックトラックと考えることができます。このテンポマップは、正確であれば、エキサイティングな可能性をもたらします。たとえば、バンド全体のタイミングを引き締めることができます(ライブパフォーマンスのマルチトラック録音でこのような操作ができるのです)。

また、テンポマップを使用して、サンプルの固定のテンポを再構成されたこのライブクリックに適応させ、実際のミュージシャンがパフォーマンスでみせるテンポの揺れに適応させることもできます。
つまり、クリックを使用しないで録音しながら、テンポとタイミングを完全にコントロールすることができるのです。バンドが思わず曲終盤で駆け足になっても、問題はありません。Melodyneなら、いつでもコントロールが可能です。

この機能には、これまでまだ知られていない優れた可能性があります。ただし、テンポ検出が作品全体を通して完璧な結果をもたらすことが条件となります。しかし、ここで完璧とは何を意味するのでしょうか?たとえば、あるトラックに自由なリズムで演奏されたサックスソロが、別のトラックに厳密なリズムで演奏されたドラムがあるとします。この2つのトラックはまったく正反対であり、Melodyneで異なる結果がもたらされることが考えられます。この例でどちらの楽器が重視されるのかは、正しいか正しくないかという意味での完璧さとは関係がなく、単に解釈の問題です。

こういった問題を解決するには、テンポ検出プロセスへの手動による干渉が必要となります。テンポエディターの[テンポをアサイン]モードは干渉の方法とツールを幅広く提供しています。このツアーのテーマとなるのは、これらの方法とツールです。

[テンポをアサイン]モードのテンポエディターの概要

メニューから[オプション]>[テンポエディターを表示]>[テンポをアサイン]を選択するか、トランスポートバーのテンポフィールド右のドロップダウンメニューから[テンポをアサイン]を選択してテンポエディターを開きます。

テンポエディターはノートエディターの下に表示されます。テンポエディターとノートエディターの間の境界線は、どちらかのエディターの上スペースを広げたい場合に動かすことができます。

それぞれの編集機能について説明する前に、[テンポをアサイン]モードのテンポエディターの各ゾーンとインターフェースの各要素の概要について説明します。

A: テンポ(BPM)スケールです。3つのゾーンから構成されています。スケールの中央をクリックしてマウスを上下にドラッグすると、表示がスクロールします。上または下のエリアをクリックして同じ手順を繰り返し、表示を拡大縮小します。中央をダブルクリックすると、テンポ範囲全体が表示されるよう、ディスプレイがズームします。テンポエディター内では、ハンドツールまたはマウスホイールで水平に、ルーペで垂直にそれぞれスクロールできます。

B: 拍子変更を編集するエリアです。この操作については別のツアーで説明しています。

C: テンポカーブの上のエリアです。ここをクリックしてマウスポインターを水平にドラッグし、編集したいカーブ部分を選択します。

D: テンポカーブです。これは、コンテキストセンシティブツールを使用して再成形できます。3つのゾーンがあり、カーブのすぐ上の細い帯とその下の2つのレイヤーから構成されています。

E: テンポカーブの下のエリアです。2つの異なるレイヤーに分かれており、上のレイヤーではツールはカーブの一部分の動作(クオンタイズされている)に使用され、下のレイヤーでは拍選択範囲内のカーブの成形に使用されます。詳しくは下をご覧ください。

ノートエディター同様、Cmdと矢印キーを使用して現在のツールの機能を実行できます(機能はツールの位置に依存します)。この方法だと細かい単位で変更できるので、微調整が必要な場合に特に便利です。通常の方法でツールを使用する場合も、キーボードコマンドを使用して操作する場合も、Altキーを押したまま操作すると、値を微調整できます。

ツールを使用してテンポカーブを編集する

テンポカーブは、拍子記号の分母に対応する拍で分割されます。カーブを成形する際、これらの拍を操作します。ただし、内部的には、テンポ変更がより高い解像度で実行されます。

録音内容のテンポが正しく検出されていない場合、オフビートと同時に起こる拍が問題となることがあります。メトロノームクリックもオフビートに重ねて聞こえるようになります。これは、演奏者が一瞬ためらったりテンポに遅れたりしたときに生じることがあり、これ以降の検出がオフビートにずれこみます。この観点から、編集を始める前に、まずメトロノームを使用しながら全体を通して聴いてみることをおすすめします。同時に、拍子記号が正しいかどうか、および、「1」が小節の先頭に一致しているかどうかを確認します。

これらを修正するには、まずタイムグリッドを有効にする必要があります。こうすることで、拍の移動が簡単になります。グリッドの幅(線と線の間隔)は重要ではありません。グリッドが有効であることが重要です。グリッドの幅は、下で説明しているテンポリージョンのサブ拍の数で決まります。

有効なタイムグリッドを使用している場合、最も役に立つツールはタイムカーブの下の2つで、それぞれ個別のレイヤーにあります。テンポカーブに最も近いレイヤーにはクオンタイズされた移動用のツールが、下のレイヤーには拍選択内のカーブの成形に使用される波形ツールがあります。マウスポインターにより仮定される形状は、レイヤーからレイヤーに移動するに従って変化します。

テンポリージョン(機能については下で説明します)が検出されておらず、テンポがずっとオフビート上にある場合、以下の手順で修正します。

  • クオンタイズ移動用のツール(テンポカーブ下の2ツールのうち上側のツール)では、テンポカーブ上の最初の小節の4拍内の任意の位置をクリックし、マウスで左または右にドラッグします。テンポカーブ全体がグリッドに沿って横に動き、オフビートを修正できます。

テンポは正確に検出されているけれど、途中でオフビートにずれてしまっている場合、以下の手順で修正します。

  • テンポカーブがずれる位置にある拍をクオンタイズ移動用ツールで選択します。その位置以降の部分全体(つまり修正が必要な部分)が自動的に選択されます。この状態でマウスを左または右にドラッグすると、クリックした拍だけでなく、それ以降の選択されている拍を拍グリッドに沿ってドラッグしてオフビートを修正できます。

注:録音内に複数のテンポリージョンが検出されている場合、この動作により自動的に選択されるエリアは現在のテンポリージョンの末尾まで伸張します。テンポリージョンについて詳しくは下で説明しています。

また、テンポが実際のテンポより遅くまたは速く検出されている場合や、パッセージがテンポ・ルバート(テンポを柔軟に伸縮させた奏法)で演奏されているためほぼすべての小節の先頭を修正しなければ成らない場合があります。このようなエラーは、(テンポカーブ下にある2つのテンポレイヤーの下側にある)波形ツールを使用して修正できます。波形ツールは、選択した複数の拍内の波形を変形できます。

波形ツールはクリックした位置だけでなくその周辺のエリアにも影響するため、このツールを使用してクリックすると、必ず選択されているテンポカーブの一部分が選択されます。小節の先頭をクリックすると、その両側の2小節が選択されます。この状態で左または右にドラッグすると、該当する小節の先頭(小節線など)が最も大きく移動し、隣り合う小節内の拍への影響は小さくなります。前後の小節の最初の拍はまったく動きません。

必要であれば、この方法で、小節線の位置を順に修正しながらパッセージ全体を一通り確認できます。長めのパッセージのテンポが実際よりも速くまたは遅く検出されている場合、このツールを使用する前にパッセージを手動で選択できます。ここでも、ドラッグを開始する位置の動きが最も大きくなり、選択範囲の両端に向けて次第に小さくなっていきます。

小節内の位置をクリック&ドラッグすると、中間にある拍のみ移動します。小節の最初の拍と、それに続く小節の最初の拍には影響しません。こうして、必要に応じて、小節内のテンポカーブに微調整を加えることができます。

アドバイス:非常に自由な演奏で、小節内に微調整を加えることなくほとんどの小節線の位置に雑な修正を加えている場合、テンポ進行に不要なムラが生じることがあります。そのため、小節線の位置に雑な修正を加えた後、コンテキストメニューで[テンポを数小節にわたってスムーズに]を選択すると有用な場合が多いです。なぜなら、このコマンドはスケールの不規則を排除するようデザインされているからです。

これまで説明した編集手順では、有効なタイムグリッドを使用してきました。タイムグリッドがオフの場合、上記の2ツールの機能は異なります。この場合、範囲は自動的に選択されず、ツールは選択した拍にのみ影響します。

  • 2ツールのうち上側のツールでは、周辺の拍に影響を与えることなく該当する拍を動かすことができます。
  • 下側のツールでも選択した拍を動かすことができますが、周囲の拍のテンポの流れは維持されます。

以下の図では、パフォーマーが新セクションの前にかなり長めの休止をとっています。しかし、続く小節へのリードインは新しいテンポになっているため、テンポの流れがつながっておらず、拍をひとつずつ正しい位置に移動する必要があります。このような問題を解決するには、2つのツールを使用する前にタイムグリッドを無効にする必要があります。

拍挿入でローカルにテンポを変更するためのツール

特定のパッセージで検出されたテンポが速すぎたり遅すぎたりして拍を追加または削除する必要がある場合、テンポカーブのすぐ上をクリックして上下にドラッグすることでこれを修正できます。こうすることで、クリックした位置に山またはくぼみを作成し、拍を挿入または削除してテンポを変更できます。

[テンポを編集]モードとの相異点に注意しましょう。[テンポをアサイン]モードでの操作がノートの時間位置を変更することはありません。これはメトロノームクリックのタイミングを調整し音楽に一致させる操作で、これは、テンポを変更し、拍を挿入または削除すると生じます。一方、[テンポを編集]モードでは、拍を挿入または削除することはできず、また、すべてのテンポ変更はそれ以降のノートすべてに影響します。

ツールを使用する前にカーブの一部分を選択していた場合、ツールは選択範囲全体に作用し、中央エリアで使用できます。何も選択していない場合、ツールは自動的に選択される複数の拍に作用します。

選択範囲の先頭または末尾で上下にドラッグしても、1つまたは複数の拍を削除または挿入できます。こうすることで、たとえば、フレーズ最後のテンポをフレーズ後のテンポに影響することなく下げることができます。

テンポリージョン分割付近をクリックすると、このツールモードが自動的に有効になり、このリージョン分割までのカーブ部分が選択されます。テンポリージョンについて詳しくは次のセクションで説明しています。

テンポリージョン

均一に流れるテンポは、たとえそのテンポに揺れがあっても、分析では連続するシーケンスであると解釈されます。一定のテンポの場合同様、Melodyneは、デュレーション範囲全体に対して_ひとつの_テンポリージョンを作成します。テンポリージョンはテンポエディター下の水平ルーラーのポップアップメニューで示されます。

テンポリージョンは、右方向に、オーディオソースの末尾または次のトラックリージョンの先頭までです。ポップアップメニューのいずれかをクリックして、対応するテンポリージョンのノートすべてを選択できます。

各テンポリージョンの左側には黒の垂直線があります。これはハンドルとして機能し、テンポエディターの一番下から一番上まで伸びています。この線を水平にドラッグすると、テンポリージョンの先頭をテンポカーブの拍グリッドに沿って動かすことができます。

「ロマンチック」なスタイルで演奏されたフレーズの最後など、テンポがところどころ非常に遅くなる場合、分析により、テンポカーブがテンポが不明な箇所は複数のリージョンに分割されます。一方、これらのテンポリージョンは、テンポの状態を分かりやすく表示するだけでなく、影響を受けるパッセージ内のテンポが正しく解釈されるよう重要な設定オプションもいくつか提供します。

複数のテンポリージョンが検出されている場合、境界を整理する必要が出てきます。以下のセクションでは、起こりうる状況とそれに応じてテンポリージョンを調整する方法について説明します。

余分なリージョン境界: 場合によっては、分析によってテンポが少し遅れる箇所にリージョン境界が作成されることがあります。これらの境界、および境界によって作成される余分なテンポリージョンは、削除できます。テンポリージョンを削除するには、リージョンの垂直ハンドルをダブルクリックします。削除すると、周辺の拍に対応するテンポカーブが自動的にスムーズになり、より標準的なテンポの流れになります。

  • 追加テンポリージョンの作成:* テンポエディター下のルーラー内をダブルクリックすると、そこに新しいテンポリージョンが作成されます。テンポリージョンの挿入は、新しいフレーズのスタート前に休止があり、後続のスムーズ化操作の休止への影響を回避させたい場合に役立ちます。

リージョン境界の位置: リージョン境界と音楽がゆっくりになり始める位置とが一致しないことがよくあります。このような場合、テンポリージョンのハンドルをドラッグして正しい位置に動かします。不一致を聞き取りやすくするために、編集を始める前に検出された拍子を確認し、最初の小節の頭が正しい「1」にあることを確認します。リージョン境界を動かすと、隣り合うリージョンのテンポと位置がそれに応じて調整されます。

テンポリージョンとサブ拍

分析では、いわゆる「サブ拍」が検出されます。サブ拍とは、オーディオ素材に含まれる極小の拍を指します。拍は一般的に4分音符単位で考えられ、リージョン内に表示される分割は4分音符に対していくつのサブ拍があるかを示しています。テンポが均一な場合2つまたは4つ、三連符の場合3つ、さらに例外的に他の数字となることもあります。

以下では、これらのサブ拍に関連してテンポリージョンのパラメーターを編集する必要のあるケースについて説明します。

  • サブ拍とテンポ:* 分析により、サブ拍が8分音符として解釈されることがあります。つまり、4分音符ごとにサブ拍が2つある状態ですが、検出されたサブ拍は16分音符でなければならないため、「意図された」テンポは実際にはその半分ということがあります。つまり、4分音符は4つのサブ拍から構成されていなければならず、この場合テンポが半分になります。

実際には8分音符の三連符であるのに、2つのサブ拍が4分音符に割り当てられてることもあります。この場合、2から3に分割を変更し、さらにテンポを3分の2に変更する必要があります。これらの変更は、リージョンのポップアップメニューを使用して行います。ここでは、4分音符に含まれるサブ拍の数を設定し、それに応じてテンポを変更できます。括弧内の数字は、検出されたサブ拍のうちいくつがテンポに組み込まれているかを示しています。この値は、サブ拍の倍数でない場合選択することもできます。

たとえば、複数のテンポリージョンがあり、録音全体のテンポを半分にする必要がある場合、Cmd+Aですべてのリージョンを選択し、選択されているリージョンのいずれかのポップアップメニューでテンポを変更します。

  • 細分割を入力:* パッセージに2または3の分割が同時に示される場合、またはこの2つが交互に生じる場合、分析ではサブ拍がはっきり検出されないことがあります。このような場合、リージョンのポップアップメニューから[細分割を入力]を選択し、表示されるテキストボックスに希望の値を入力します。

この動作は、拍とテンポに対しては変更を加えませんが、リージョンのポップアップメニュー内の他のテンポ比を選択でき、リージョンの動きはこれ以降新しいサブ拍の細分割によって制御されるようになります。

  • 編集後のテンポリージョンの重要性:* テンポ検出では、まず検出の不連続がありうる場所にリージョンが置かれます。連続して流れるテンポの録音内容の場合、これらすべてを消去する必要があります。つまり、編集完了時には、テンポマップにテンポリージョンが残っていない状態でなければなりません。

一方、録音内でパフォーマーがフレーズの最後で休止してから次のフレーズの先頭で均一なテンポに戻っている場合、テンポの流れが中断されているため、リージョン間の分割を2つ目のフレーズの先頭に動かしそこに置く必要があります。また、録音が、交互にテンポレベルが大きく異なるパッセージから構成されている場合があります。この場合も、リージョン境界を残す必要があります。

いずれかの[テンポをスムーズに]コマンドを使用する場合、スムージングは必ず1つのリージョンにのみ限られ、リージョン境界に影響はありません。

「フリー」テンポ指示をアサインする

パフォーマンスのリズムが非常に自由なものである場合、場合によってはテンポ検出がほとんど役に立たず、検出結果を無視して「フリー」テンポ指示をパッセージ全体にアサインする方が簡単な場合もあります。

同様に、数小節にわたって無音がある場合や、はっきりとした音がなく認識可能なノート先頭やリズムがない場合、分析によって理に適うテンポカーブが得られません。これ自体はあまり問題ではありませんが、このようなパッセージにクリックが必要な場合(たとえば、一定の拍にわたってリズムのオーバーダブを追加したい場合)、以下の手順で行います。

テンポエディター内の該当するエリアを選択し、コンテキストメニューで[フリーテンポアサイン]を選択します。ファイル全体のテンポにフリーテンポをアサインしたい場合、このコマンドを使用する際に何も選択されていない状態にしておく必要があります。こうすることで、コマンドがテンポカーブ全体に作用します。

このコマンドの効果は、既存のテンポを削除し、一定のテンポで置き換えるというものです。該当のパッセージが白(拍なし)で表示され、テンポカーブは直線になります。まず、この線をゼロ小節位置で水平にドラッグし、テンポ進行の先頭を設定します。

その後、録音の平均テンポに到達するまで、またはエリアが希望の小節数で満たされるまで、直線を上下にドラッグします。ファイル全体のテンポに「フリー」指示をアサインしたい場合、カーブを垂直に動かす代わりに、トランスポートバーのテンポフィールドで値を変更することもできます。

一番良い方法は、その後左から右に未定義のテンポエリアを移動し、各小節の先頭をクリックして、そこに表示される拍を有効な拍にしていきます。拍を該当する小節の先頭にある正しいノートへとドラッグします。移動中は、ノートエディターの一番下に表示される垂直線を参考にすると便利です。

この方法で希望の位置に到達するまでテンポを編集したら、コンテキストメニューから[フリーテンポアサインを終了]コマンドを選択します。範囲が拍で埋められ、拍の「定義済み」状態が復元されます。この方法でテンポマップ全体ではなくテンポカーブの一部分だけに「フリー」テンポ指示をアサインした場合、最後の小節をクリックすると、拍が自動的に挿入され、続く部分へのカーブの推移がスムーズになります。

コンテキストメニューには、上で説明した[フリーテンポアサイン]コマンドのほかに、[エンドまでフリーテンポアサイン]と[スタートからフリーテンポアサイン]2つのコマンドがあります。これらのコマンドは、対応する選択を手動で実行する手間を省くことができるようデザインされています。

次のようなシチュエーションに便利です。作品の最後付近のノートでテンポが下がる場合、テンポのスローダウンをそこに定義します。定義されたテンポはそれ以降無視され、スローになったテンポが終わりまで維持されます。これを実行するには、まず[エンドまでフリーテンポアサイン]を選択してから、最後のスローダウンしたテンポを編集します。[スタートからフリーテンポアサイン]コマンドは、選択範囲の先頭に到達するまで左方向にテンポを均一化します。

テンポ再検出を実行する

テンポアサインがうまくいかなくなった場合、テンポの再検出を実行してもう一度はじめからやり直すことができます。白紙の状態に戻すのではなく、アサインのほとんどをそのまま残し、難しいパッセージのみをやり直すことができます。この場合、該当するパッセージのblobを選択し、メインメニューの[編集]>[テンポ]>[選択範囲のテンポを検出し現在のテンポに結合]を選択します。

これで、これまでにパッセージに適用したすべてのテンポアサインが無視され、Melodyneがオーディオ素材から抽出したテンポ情報により置き換えられます。ただし、選択されているパッセージの左右のテンポカーブには変更が加えられません。

この手順では、ノートの選択が非常に重要となります。ノートの選択が再検出のベースとなるためです。 ライブパフォーマンスの録音の例を思い出してください。音楽に合わせて足でリズムを取っていたとすると、(無意識ではあるけれど)十中八九、どちらかというとリズムに厳密にはサックスではなく、ドラムやベースに合わせてリズムを取っていたでしょう。同様に、Melodyneを使用する際も、サックスに気を取られることなく、ドラムやベース、さらにはリズムギターのテンポ分析をベースにしたいはずです。

従って、Melodyneに分析させたいトラックのみにノートエディターをドラッグし、その中でサックスソロと同時に起こるノートのみを選択する必要があります。その後、[編集]>[テンポ]>[選択範囲のテンポを検出し現在のテンポに結合]を選択します。

これで、問題のあるパッセージ全体を通して、オリジナルの検出結果(と不手際な編集)を、最適化されたトラック選択をもとに行われた別の検出結果で置き換えられました。まとめると:オリジナルの検出結果は、全トラックが同時にインポートされると実行され、どのトラックも同じように扱われます。上記のように(トラックを限定して)再検出を実行することで、リズムに厳密でないサックスのプレイにより生じるMelodyneのエラーを防ぐことができます。

トラック内の特定のノートの選択を意図的に解除することで、再検出用の素材をさらに最適化することができます。たとえば、ライブのステレオ録音を扱っており、それに合わせたクリックトラックを作成しようとしているとします。この場合、Melodyneのテンポ分析の大部分が(ミックス内で簡単に識別可能な)ベースやキックドラムに基づくものになるよう、ボーカルと1~2の他のトラックから生成されたすべてのノートの選択を解除しておくと良いでしょう。

個別のファイルのテンポアサイン

これまで、プロジェクト全体に対して1つのテンポマップがあるシチュエーションについて説明してきました。必要に応じて、オーディオ素材により合致するよう[テンポをアサイン]モードで最適化を行うことができます。ここでは、同時に録音されていたり、ある種のオーバーダブ処理がなされていたりして、大まかに同期している複数のトラックからプロジェクトが構成されているものとして仮定していました。 さまざまに異なるテンポの録音をひとつのプロジェクトとしてまとめたい場合はどうでしょう?オートストレッチがオンの場合、Melodyneは、プロジェクトのテンポマップに合わせて新たにインポートされたオーディオファイルを個別に調整します。この手順と設定については次のセクションで説明しています。

各ファイルをインポートする際、Melodyneによりオーディオ素材が分析され、ファイル全体を通してテンポが検出され、この情報からテンポマップが作成されます。これがファイルのテンポマップになります。複数のファイルをインポートする場合、各ファイルに独自のテンポマップが用意されます。ただし、プロジェクト自体はテンポマップを1つしか持つことができません。[テンポをアサイン]モードで編集を開始したであろうあのテンポマップです。

そのため、プロジェクトの再生については、Melodyneは各ファイルのテンポマップを適所で伸張または圧縮し、プロジェクトのテンポマップに合致するようにします。簡単な例を挙げると、Melodyneによりファイルのテンポが100BPMの固定と検出されたのに対して、プロジェクトのテンポは120BPMであるとします。この場合、ファイルを20%速く再生するだけでOKです。また、固定テンポ112BPMでインポートされた別のファイルがあるとします。この場合、7%ほど速く再生しなければなりません。

もちろん、ファイルやプロジェクトのテンポが一定でない場合、この計算ははるかに複雑になり、またあるファイルのテンポの揺れは別のファイルのテンポの揺れと同じではありません。しかし、心配はありません。Melodyneなら、このような問題にも対処できます。ユーザー側に必要とされるアクションはありません。

ただし、時として、ファイルのテンポマップを再描画したい場合―たとえば、ドラムループの表示テンポを半分または2倍にしたり、ポリリズム録音で三連符を選択したりなどしてテンポを独自に解釈したい場合があります。こういった決断は、ファイル自体には当初何の影響も与えませんが、オートストレッチがオンの状態でファイルをプロジェクトにインポートすると、かなりの違いを生じます。

まとめると、それぞれのオーディオファイルにもテンポマップがあり、それを編集できるということです。これを行うには、ノートアサインメントモードに切り替えます。まとめると、それぞれのオーディオファイルにもテンポマップがあり、それを編集できるということです。これを行うには、ノートアサインメントモードに切り替えます。 該当するトラック上に 複数のオーディオファイルがある場合、まず作業したいファイルに属するblobをクリックして、正しいファイルがノートアサインメントモードでの編集に選択されていることを確認します。

ノートアサインメントモードでは、ファイルが常に分離された状態で(かつ元の純粋な状態で―つまり、これまでにノートエディターで適用した編集が無視された状態で)聞こえます。

ノートアサインメントモードでは、テンポエディターは自動的に[テンポをアサイン]モードで開きます。[テンポを編集]モードは、ノートアサインメントモードからはアクセスできません。

ただし、ここでアサインされるのはプロジェクトのテンポマップではなく、オーディオファイルのテンポマップです。まったく別のプロジェクト(つまり、ファイルが元々録音されているプロジェクト)を扱っていると考えることもできます。ここでの目的は、オリジナル録音のクリックトラックを再構築し、Melodyneが後でそれを「変形」させて現在のプロジェクトのクリックトラックに合致させることができるようにすることです。

ファイルテンポのアサイン中にテンポエディターで使用される手順とツール、および使用可能な機能は、これから説明する[編集]>[テンポ]メニューの2つのコマンドを除き、テンポエディターの[テンポをアサイン]モードで説明したものと同一です。

[編集]>[テンポ]>[プロジェクトテンポをファイルに適用]を選択すると、ファイルのテンポが無視され、プロジェクトのテンポによって置き換わります。

このコマンドは、その後にノートアサインメントモードからアルゴリズムインスペクターでアサインメントファイルを保存する場合に特に便利です。以下の例では、この便利な用途を示します。

シャンソン(ギターやピアノを伴奏に歌ったもの)のライブパフォーマンスを録音したとします。クリックはなく、テンポの流れはMelodyneにより検出済みであり、このボーカルトラックをリミックスにインポートしたいとします。リミックスはボーカルトラックに比べて少しだけテンポが速く、テンポは一定です。ここではまず、リミックスのテンポマップに合わせて「変形」できる、ボーカルトラックのテンポマップを作成する必要があります。しかし、ボーカルトラックのテンポマップはすでに存在しています。先に説明した、曲のライブパフォーマンスのプロジェクトのテンポマップです。そのため、[プロジェクトテンポアサインをファイルテンポアサインに適用]コマンドを使用してこれを現在のファイルに採用し、アサインメントファイル内に保存します。リミックス再生時、Melodyneはシャンソンのテンポの揺れをアサインメントファイルから読み込み、歌を自動的に同期させます。

また、逆も可能です。たとえば、いくつかの関連録音からドラムトラックのテンポのみをアサインし、このアサインをプロジェクト全体のアサインに適用したいとします。この場合、[編集]>[テンポ]>[ファイルテンポをプロジェクトテンポに適用]コマンドが役立ちます。

テンポエディターの[テンポをアサイン]モードでも、MPD、アサインメント、MIDIファイルに保存されているテンポマップをインポートできます。これは、[ファイル]>[テンポをインポート]を選択するか、該当するファイルをテンポエディターにドラッグすることで実行できます。

こうすることで、たとえばすでに編集されたファイルのテンポ検出をノートアサインメントモードで編集したばかりのプロジェクトまたはファイルに転送できます。

テンポエディターの[テンポをアサイン]モードでは、インポートされたデータマップは常にプロジェクトの先頭に置かれます。インポートされたファイルからは、テンポマップだけでなく拍子記号の変更やテンポリージョンも適用されます。

コンテキストメニューのコマンド

テンポエディターが[テンポをアサイン]モードの場合、テンポエディターの編集モードのコマンドに対応する次のコマンドもコンテキストメニューに表示されます。

  • テンポを数小節にわたってスムーズに:テンポ変更を数小節にわたってスムーズに分散させ、小節のスタートが少し移動します。
  • テンポを数拍にわたってスムーズに:テンポ変更を1小節にわたって均等に分散させますが、小節自体にはほとんど影響しません。
  • 拍間のテンポをスムーズに:拍内のテンポ変更をスムーズにします。拍の位置は変更されませんが、拍間のテンポ変更が段階的にではなくスムーズになります。
  • リニアなテンポ進行を作成:この機能は、第1拍のテンポと、最終拍のテンポ、選択範囲のテンポの間の段階的なテンポ変更を(2点間の以前のカーブの形状に関係なく)計算します。

[テンポを編集]モードとの相異点に注意しましょう。[テンポを編集]モードで上昇または下降するテンポ進行が計算されている場合、該当する範囲内で選択されている拍の数は変わりません。ただし、それ以降の拍の位置は新しいローカルのテンポ進行の結果として移動します。テンポをアサインする際、これは望まれる動作ではありませんので、[テンポをアサイン]モードでは、選択されている範囲内の拍の数が変化し、新しいテンポ進行に合致します。それ以降の拍の位置は変わりません。

  • テンポを一定に:選択されている部分に対して一定のテンポを算出します。選択されている部分の平均テンポと同じです。ここでも、拍が選択されているエリア内で追加または削除され、拍の数が新しいテンポに合わせられます。

何も選択されていない場合もこのコマンドを使用でき、その場合テンポマップ全体に適用されます。たとえば、分析後、Melodyneが緩やかに変動するテンポを検出したとします。しかし、実際の録音中にはクリックが使用されていました。この場合、このコマンドは、素材とその開始位置に最も適切な一定のテンポを算出し、この一定のテンポをアサインされたテンポとして採用します。

これらのコマンドは、メインメニューから[編集]>[テンポ]を選択しても実行できます。

ユニバーサルアルゴリズムでの拡張テンポ検出

検出に[ユニバーサル]アルゴリズムを用いた複雑な楽曲のテンポを編集したい場合、[編集]>[テンポ]>[拡張テンポ検出]オプションを選択することでよりより正確なテンポ検出結果を得ることができます。

このオプションが選択されている場合、ポリフォニック検出と同じテンポ検出アルゴリズムが使用されます。この場合、ファイルに関する追加情報にアクセス可能となるため、テンポ検出がより正確になります。

もちろん、かなりリズミカルな素材や比較的シンプルな素材の場合、違いは感じられません。一方、複雑なピアノソナタやバンド全体のミックスなどでは違いははっきりします。このような素材では、拡張テンポ検出の利点が顕著に表れます。

[拡張テンポ検出]オプションは、[ユニバーサル]アルゴリズムが選択されている場合のみ使用できます。[ポリフォニック]アルゴリズムが使用されている場合、オプションは常に有効です。他のアルゴリズムでは、灰色表示になります。